近年流行りのバランス型ファンドと言えば、国内外の株式・債券・REITに均等に分散するというものでした。
しかし、今後新たなバランスファンドの方向性を示してくれるのが三菱UFJ投信のOne 国際分散投資戦略ファンド『愛称:THE GRiPS 8%』です。
このファンドの面白いところは、相場の方向性に合わせて資産を入れ替えるだけでなく、先物取引でレバレッジをかけ、リスクコントロールしていきます。
過去シミュレーションではリスクを抑えながら高いリターンが期待できるようですが、果たしてどのようなファンドなのか徹底分析していきます。
「THE GRiPS 8%って投資対象としてどうなの?」
「THE GRiPS 8%って持ってて大丈夫なの?」
「THE GRiPS 8%より良いファンドってある?」
といったことでお悩みの方は、この記事を最後まで読めば、悩みは解消すると思います。
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One 国際分散投資戦略ファンド(目標リスク8%)『THE GRiPS 8%』の基本情報
投資対象は?
THE GRiPS 8%の投資対象は国内外の株式、債券、通貨、商品等に実質的に投資をしていきます。
具体的には以下が投資対象となっています。25前後の資産に分散投資をすることで、分散効果の高いポートフォリオを構築していきます。
※引用:商品説明資料
運用にあたっては、株価指数先物、債券先物、商品先物等を活用し、買建てと売建てのポジションを組み合わせ、絶対値の合計が信託財産の純資産総額の10倍程度の範囲で運用を行います。
字が小さいので、気づかない人も多いかもしれませんが、レバレッジを積極的に活用していくファンドということです。
ただし、短期的な利益を稼ぐ目的で先物取引を活用するわけでなく、リスクコントロールのためにレバレッジを活用するという点が今まで出てきたレバレッジ型ファンドとは異なると言えます。
THE GRiPS 8%の現在の組入れ比率は以下のようになっており、レバレッジは1.7倍程度となっています。債券の保有比率がかなり高いようですね。
※引用:マンスリーレポート
THE GRiPS 8%の構成比率の変化を見てみると、コロナショック時はレバレッジを相当抑えていたようですが、時間が経つにつれて、レバレッジの比率を高めているようです。
※引用:マンスリーレポート
運用の特徴は?
THE GRiPS 8%の運用の特徴は何と言っても、価格変動要因(リスク要因)の均一化です。従来のファンドは価格変動要因を考えずにポートフォリオを組んでいました。
ですので、下図のようにリスクを抑えようと国内債券ばかりに投資をすると、金利変動の影響を大きく受けてしまうポートフォリオになっていました。
※引用:商品説明資料
そこでTHE GRiPS 8%では、まず、各資産ごとに価格変動要因を洗い出します。株式であれば、金利水準20%、為替変動20%、世界の経済成長60%など。
そして、各資産を合計したときに、金利水準、為替変動、世界の経済成長の価格変動要因が均等になるように各資産の配分を決定いきます。
これにより、特定のイベントが起きたときに基準価額が大きく下がるというリスクを回避することができるというわけです。
この手法は年金運用の現場でも支持されており、特定の価格変動要因による影響を大きく受けなくて済むという利点はあります。
一見まともなことを言っているように聞こえますが、価格変動が均一化されるだけなので、あくまで安定的な運用ができるということです。利回りが高い運用が実現できるという話ではありません。
※引用:商品説明資料
そして、もう一つの特徴がリスクのコントロールのために先物取引を活用するという点です。
近年、各運用会社から新規設定されたファンドは資産を大きく増やすという投機的な目的で先物取引が活用されているケースがほとんどでした。
しかし、THE GRiPS 8%の場合は、下図のように下落幅を小さくする目的で利用されます。
※引用:商品説明資料
そして、リスクの幅を選択できるというのも大きな特徴でしょう。ライフスタイルに合わせて、年間の基準価額の変動リスクを4%、6%、8%の範囲に抑える運用を行います。
近年、リスク水準を選択できるファンドが増えてきていますが、どこまで下落するかわからないファンドと比べて、ある程度下落幅を想定できるので、安心ですね。
純資産総額は?
投資を検討するうえで、純資産総額は必ず確認するようにしてください。
純資産総額は大きいほうが、ファンドマネージャーが資金を運用する際に効率よくできたり、保管費用や監査費用が相対的に低くなりますので、コストが低く抑えられます。
また投資信託の規模が小さくなると運用会社自体がその投資信託に力を注がなくなりパフォーマンスが悪くなることもありますので注意が必要です。
THE GRiPS 8%の純資産は現在、総額は約38億円です。コロナショック以降は、パフォーマンスもかなり厳しい状況が続いており、それに合わせて資金が流出しています。この規模だと少し心許ないですね。
※引用:マンスリーレポート
実質コストは?
THE GRiPS 8%に投資をするうえでやはり気になるのがコストです。
私たちが支払うコストには、目論見書に記載の信託報酬以外に、株式売買委託手数料や、保管費用、印刷費用などが含まれています。
そのため、実際に支払うコストは、目論見書記載の額より高くなるのが通例で、実際にかかる実質コストをもとに投資判断をしなければなりません。
信託報酬を信用するな。知らないうちに差し引かれている実質コストの調べ方
THE GRiPS 8%の実質コストは年2.096%となっており、かなり割高な水準です。さらに購入時手数料もしっかりとかかってきますので、相当優れたファンドでなければ、あえて投資をしようとは思えません。
購入時手数料 | 3.3%※上限 |
信託報酬 | 1.793%(税込) |
信託財産留保額 | なし |
実質コスト | 2.096※概算値 |
※引用:最新運用報告書
「ファンドの運用で成果を出すために一番大事なことは何ですか?」と聞かれてあなたは何と答えますか?
もし『ファンド選び』だと思ったとしたら、あなたはドツボに
はまっていますので、こちらの記事を読んでみてください。
One 国際分散投資戦略ファンド(目標リスク8%)『THE GRiPS 8%』の評価分析
基準価額をどう見る?
THE GRiPS 8%の基準価額はコロナショックで大きく下落して以降、まったく回復の兆しが見えません。
今回、バランス型のファンドでリスクを抑えた運用をしているファンドの多くが、コロナショック以降にリスクを取った運用ができず、株式市場が大きく反発する局面で機会損失をしました。THE GRiPS 8%もその典型ですね。
※引用:モーニングスター
利回りはどれくらい?
THE GRiPS 8%の直近1年間の利回りは▲15.01%です。
運用開始以降、右肩下がりが続いていますので、さすがに投資をしたいという気にはなれません。
ちなみにあなたは実質利回りの計算方法はすでに理解していますか?もし、理解していないのであれば、必ず理解しておいてください。
平均利回り | |
1年 | ▲15.01% |
3年 | - |
5年 | - |
10年 | - |
※2022年10月時点
同カテゴリー内での利回りランキングは?
THE GRiPS 8%は、バランス型ファンドでも株式・RIETの組入比率が25%未満のカテゴリーに属しています。
投資をするのであれば、同じカテゴリーでも優秀なパフォーマンスのファンドに投資をすべきなので、同カテゴリー内でのパフォーマンスのランキングは事前に調べておいて損はありません。
THE GRiPS 8%は残念ながら同カテゴリー内でも下位10%に位置しており、かなり厳しい結果となっています。
上位●% | |
1年 | 89% |
3年 | - |
5年 | - |
10年 | - |
※2022年10月時点
年別の運用利回りは?
THE GRiPS 8%の年別のパフォーマンスも見てみましょう。
2020年は2桁のマイナス、2021年はプラスでしたが、2022年に入り、また20%以上マイナスの運用が続いています。
株式市場が好調であるだけに、このパフォーマンスでは投資家から見向きもされないですね。
年間利回り | |
2022年 | ▲20.72%(1-9月) |
2021年 | +2.28% |
2020年 | ▲11.56% |
※2022年10月時点
投信運用は長期投資が前提なので、つい出口戦略を考えずに投資をしてしまいがちです。
しかし、「投資は出口戦略にあり」と言われるほど、重要なテーマです。ぜひこれを機会に投資の出口戦略を考えてみてください。
>>ここまで考えるのが本当の資産運用。多くの投資家が考えられていない投信運用の出口戦略とは類似ファンドとの利回り比較
THE GRiPS 8%へ投資をするのであれば、他のアクティブファンドとパフォーマンスを比較してからでも遅くありません。
今回は、安定運用のバランスファンドとして定評のある投資のソムリエと比較をしてみました。
※引用:モーニングスター
どちらも悲惨な結果ですが、THE GRiPS 8%はレバレッジを効かせている分、下落幅がかなり大きくなっています。
GRiPS 8% | 投資のソムリエ | |
1年 | ▲15.01% | ▲12.03% |
3年 | - | ▲2.69% |
5年 | - | ▲0.21% |
10年 | - | - |
※2022年10月時点
最大下落率は?
THE GRiPS 8%に投資をする前に、最大でどの程度下落する可能性があるのかを知っておくことは非常に重要です。どの程度下落する可能性があるかを把握しておけば、大きく下落した相場でも落ち着いて保有を続けられるからです。
それではここでTHE GRiPS 8%の最大下落率を見てみましょう。
期間 | 下落率 |
1カ月 | ▲12.95% |
3カ月 | ▲15.07% |
6カ月 | ▲16.47% |
12カ月 | ▲16.90% |
※2022年10月時点
最大下落率は2020年3月~2021年2月の1年間で16.90%となっています。
運用期間がまだ短いので、そこまで大きな下落は経験していませんが、レバレッジをかけた運用をしていることを考えると、今後もっと大きな損失を出す可能性は十分にあります。
最大下落率を知ってしまうと、少し足が止まってしまうかもしれません。しかし、以下のことをしっかり理解しておけば、元本割れの可能性を限りなく低くすることが可能です。
評判はどう?
それでは、THE GRiPS 8%の評判はどうでしょうか?ネット等で口コミを調べることもできますが、資金の流出入を見ることで、評判がわかります。
評判がよければ、資金が流入超過になりますし、評判が悪くなっていれば、資金が流出超過になります。
THE GRiPS 8%はコロナショック以降、資金が流出超過しており、人気が落ちていることがわかります。コロナショック以降のパフォーマンスを見れば、仕方ないですね。
※引用:モーニングスター
One 国際分散投資戦略ファンド(目標リスク8%)『THE GRiPS 8%』の評価分析
THE GRiPS 8%について私は以前にこのようなコメントをしていました。
『THE GRiPS 8%の販売資料や目論見書を読むと、株式や債券よりもリスクは低くリターンは大きいというまさに理想的な青写真が描かれています。
しかし、あくまでも先物を活用したレバレッジ取引がうまく機能した場合の話ですので、すぐに飛びつくのではなく、本当にうまく GRiPS戦略がうまく機能するからでも遅くはありません。』
案の定と言いますが、少なくともコロナショック時には、GRiPS戦略は全くと言っていいほど、機能しておらず、多くの投資家に損失を与えました。それ以降も、悲惨な結果となっています。
改めて、リスク目標のあるバランスファンドというのは今回のような大きな暴落相場が来ると、うまく機能しないファンドもあることを覚えておいてください。
特に、暴落は回避できるかもしれませんが、その後の反発局面を取りこぼすファンドが多いですので、その点もしっかりと確認していく必要があります。
どちらにしても、現状THE GRiPS 8%にあえて投資をするメリットはないと言えますね。
最後に、投信運用には多くのメリットもありますが、当然ながら、弱点もあります。
今も私は投信運用を続けてはいますが、私がなぜ投資信託の運用を主軸におかなくなったのか。その理由をこちらで話をしています。
>>なぜ私が投信運用に限界を感じたのか。多くの投資家が見逃している投信運用の弱点