アセットマネジメントOneが運用する、新光 US-REIT オープン『ゼウス』。
ファンド名称の「新光」は、アセットマネジメントOneの前身の
一社である新光投信がこの投資信託を設定した名残です。
一時は国内公募投資信託の純資産ランキングで常に上位に位置して
いたため、「ゼウス」の名を聞いたことがある人は多いと思いますが、
最近は完全に凋落気味です。
なお、新光 US-REIT オープン『ゼウス』には毎月決算型と年1回決算型
がありますが、今回はより人気の高い毎月決算型について分析していきます。
新光 US-REIT オープン『ゼウス投信』の基本情報
投資対象は?
新光 US-REIT オープン『ゼウス』は、米国に上場している不動産
投資信託証券(US-REIT)に投資し、安定した収益の確保を目指します。
REITというのは投資家から集めた資金を使って、オフィスビル・
商業施設、賃貸住宅などを保有し、賃貸料や不動産売買で収益を
上げています。
その収益の大部分を配当金という形で投資家に分配している
という仕組みですね。
※引用:交付目論見書
上位に組み込まれている銘柄は、60銘柄で構成されており、インフラ、
森林、貸倉庫、データセンター、住居と幅広く分散されています。
※引用:マンスリーレポート
運用の特徴は?
運用はアメリカの大手運用会社であるインベスコ社に委託しており、
アセットマネジメントOneの役割は実質的に運用業務以外の投資信託
の管理や販売会社向けのセールス業務などに留まっています。
したがって、運用パフォーマンスはインベスコ社の手腕次第という
ことになります。
インベスコは全世界で100兆円を超える資産を運用しており、
アメリカでの不動産運用では約2兆円超・業界第4位の運用残高を
誇る、世界有数の独立系資産運用会社です。
純資産総額は?
続いて、純資産総額はどうなっているか見てみましょう。
純資産総額というのは、あなたを含めた投資家から集めた資金の
総額だと思ってください。
投資信託の純資産総額が小さいと、適切なタイミングで銘柄を入れ
替えることができなかったり、純資産総額が大きく減少していると、
投資信託の組み替えがうまくできず、予期せぬマイナスを生む可能性
がありますので、事前に確認すべきポイントの1つです。
新光 US-REIT オープン『ゼウス』の純資産総額は4500億円程度と、
ピーク時の半分以下にはなっていますが、未だに人気が非常に高いです。
テーマ型であること、毎月分配型であること、分配金がタコ足である
こと、信託報酬と購入時手数料が高いことなど、金融庁が批判対象と
した投資信託の条件をほぼ全て満たしていることから既存受益者の
解約が進んでいます。
※引用:マンスリーレポート
実質コストは?
私たちが支払うコストには、目論見書に記載の信託報酬以外に、
株式売買委託手数料や、保管費用、印刷費用などが含まれています。
そのため、実際に支払うコストは、目論見書記載の額より高くなる
のが通例で、実際にかかる実質コストをもとに投資判断をしなければ
なりません。
信託報酬を信用するな。知らないうちに差し引かれている実質コストの調べ方
新光 US-REIT オープン『ゼウス』の実質コストは1.72%となって
おり、REITカテゴリーの中では、割高となっています。
運用実績が優れないのにこのコストは高すぎますね。
購入時手数料 | 3.3%※上限 |
信託報酬 | 1.683%(税込) |
信託財産留保額 | 0.1% |
実質コスト | 1.72%(概算値) |
※引用:最新運用報告書
実質コストを加味しても、新光 US-REITオープン『ゼウス』よりはるかに優れた海外REITファンド特集
新光 US-REIT オープン『ゼウス投信』の評価分析
基準価格をどう見る?
新光 US-REITオープン『ゼウス』の基準価額は2000円近辺まで
下落しています。
驚くほど低い数値のため、よほど運用パフォーマンスが悪いのでは
ないかと勘繰ってしまいますが、この基準価額の低さには別の理由
があります。
新光 US-REIT オープン『ゼウス』は典型的な、「タコ足分配」型の
投資信託です。
これはインカムゲインやキャピタルゲインなどの運用パフォーマンス
を超えた金額を分配しているということであり、具体的にはファンド
の資産を切り崩して分配を行っているのです。
いくら運用パフォーマンスをあげても、それを超える分配金を払い
出すために投資信託の資産を切り崩せば純資産額も減少するので、
基準価額は低下します。
これを2004年の設定来から繰り返した結果、基準価額はこのような
数値となっているのです。
10年間のトータルリターンが10パーセント超であるにも関わらず、
ここまで基準価額が低い理由は、この点にあります。
※引用:モーイングスター
利回りはどう?
新光 US-REIT オープン『ゼウス』の利回りを見ていきましょう。
直近1年間の▲9.07%となっています。
3年平均、5年平均利回りもたいした利回りにはなっていません。
この利回りでは、運用会社や販売会社に毎年支払う信託報酬の
ほうが高くなっており、あなたが儲けるためでなく、運用会社を
儲けさせるために運用しているようなものです。
ちなみにあなたは実質利回りの計算方法はすでに理解していますか?
もし、理解していないのであれば、必ず理解しておいてください。
平均利回り | 2020年1月 | 2020年7月 |
1年 | 24.34% | ▲9.07% |
3年 | 5.21% | ▲0.44% |
5年 | 3.23% | 1.13% |
10年 | 10.77% | 9.10% |
※2020年7月時点
同カテゴリー内における利回りランキング(上位●%)の変化
新光 US-REIT オープン『ゼウス』は、国際RIETの
特定地域カテゴリーに属しています。
投資をするのであれば、同じカテゴリーでも優秀なパフォーマンス
のファンドに投資をすべきなので、同カテゴリー内でもパフォー
マンスのランキングは事前に調べておいて損はありません。
新光 US-REIT オープン『ゼウス』は、直近1年間で大きくマイナス
となりましたが、それでも同カテゴリー内では上位30%程度に
ランクインしています。
平均よりは良い程度なので、極めて優れた成果を出している
ファンドとは言えません。
平均利回り(上位●%) | 2020年1月 | 2020年7月 |
1年 | 16% | 15% |
3年 | 57% | 30% |
5年 | 43% | 33% |
10年 | 38% | 38% |
※2020年7月時点
年別の運用パフォーマンスは?
つづいて、新光 US-REIT オープン『ゼウス』の年別のパフォーマンス
を見てみましょう。
2014年、2019年は非常に高いパフォーマンスとなっていますが、
それ以外の年はパッとしません。
この程度の利回りであれば、あえて米国リートに投資せずとも、
もっと利回りの高いアセットクラスがいくつもあります。
年間利回り | |
2020年 | ▲14.21%(1-6月) |
2019年 | 24.34% |
2018年 | ▲8.66% |
2017年 | 2.55% |
2016年 | ▲0.26% |
2015年 | 0.93% |
2014年 | 45.71% |
※2020年7月時点
考えずに投資をしてしまいがちです。
しかし、「投資は出口戦略にあり」と言われるほど、
重要なテーマです。
ぜひこれを機会に投資の出口戦略を考えてみて
ください。
>>ここまで考えるのが本当の資産運用。多くの投資家が考えられていない投信運用の出口戦略とは
インデックスファンドとのパフォーマンス比較
新光 US-REIT オープン『ゼウス』に投資をする前に
より低コストで運用できるインデックスファンド
とのパフォーマンスは比較しておいて損はありません。
今回は、S&P米国リート指数に連動するeMAXIS 米国リート
インデックスとパフォーマンスを比較してみました。
2019年以降は、新光 US-REIT オープン『ゼウス』の
パフォーマンスが上回り始め、コロナショック以降は
さらにその差を広げています。
米国リートに投資をするのであれば、高いコストを支払って
でもアクティブファンドに投資をする価値があると言えますね。
※引用:モーニングスター
新光 US-RIET | eMAXIS 米国リート | |
1年 | ▲9.07% | ▲14.65% |
3年 | ▲0.44% | ▲3.00% |
5年 | 1.13% | – |
10年 | 9.10% | – |
※2020年7月時点
類似ファンドとのパフォーマンス比較
新光 US-REIT オープン『ゼウス』への投資を検討するので
あれば、同じくUSリートに投資をしているアクティブファンド
と最低でもパフォーマンスは比較しておきましょう。
今回は、ゼウス同様、米国リートに投資をしていて、いまだに
非常に人気のあるフィデリティ・USリートBとダイワ・US-REIT
オープンBと比較をしてみました。
結果はダイワ・US-RIET・オープンBコースがわずかにパフォー
マンスでは優れているようです。
ただ、どのファンドに投資をしても大きな差はないというのが、
正直なところです。
※引用:モーニングスター
新光 US-RIET | フィデリティUSリート | |
1年 | ▲9.07% | ▲9.99% |
3年 | ▲0.44% | ▲0.85% |
5年 | 1.13% | 1.73% |
10年 | 9.10% | 10.58% |
※2020年7月時点
最大下落率は?
新光 US-REIT オープン『ゼウス』に投資をするのであれば、
最大でどの程度下落する可能性があるのかは知っておきたい
ところです。
標準偏差などから推定することもできますが、過去にどの程度
下落しているかもひとつの参考になります。
REITであれば、株式ほどリスクは高くないであろうと思いがちですが、
新光 US-REIT オープン『ゼウス』は2008年9月~2009年2月の
1年間で、最大▲59.04%下落しており、かなりリスクが高いことが
わかります。
REITは普段の値動きは株式よりも堅調ですが、下落するとなると、
株式ファンドよりも急速に下落する傾向があるので、要注意です。
ちなみにあなたは実質利回りの計算方法はすでに理解していますか?
もし、理解していないのであれば、必ず理解しておいてください。
期間 | 下落率 |
1カ月 | ▲31.23% |
3カ月 | ▲48.83% |
6カ月 | ▲59.04% |
12カ月 | ▲56.63% |
※2020年7月時点
分配健全度はどれくらい?
分配金を毎月受け取っていると、受け取っていることに安心
してしまい、自分の投資元本からの配当なのか、ファンドの
収益からの配当なのか調べなくなります。
そこで、分配金がファンドの収益からちゃんと支払われている
のかを調べるときに役立つのが分配健全度です。
分配健全度とは、1年間の分配金の合計額と基準価額の変動幅を
もとに、あなたが受け取った分配金の約何%がファンドの収益
によるものなのかを計算できる指標です。
基準価額の変動幅 | 1年間の分配合計額 | 分配健全度 |
▲507円 | 300円 | ▲69% |
※2019/7/22~2020/7/21
新光 US-REIT オープン『ゼウス』の直近1年間の分配健全度は
▲69%となっています。
分配健全度は100%を切ると、一部ファンドの収益以外から
分配金が支払われていることを意味しますが、0%を下回る
ということは、ファンドの収益からの支払いは一切ない
ということを意味します。
ここまで分配健全度がマイナスになるファンドも珍しいですが、
ファンドの運用がうまくいっていないにもかかわらず、高い
分配金を支払っているようなファンドだとこのような数値に
なりがちですので、注意が必要です。
計算するとよくわかる!分配金を受け取ることによるデメリットとは?
分配金利回りはどれくらい?
毎月分配型のファンドに投資をしている場合、どれくらいの
分配金が受け取れるのかを知るために分配金利回りを参考
にします。
(分配金利回りは基準価額に対する分配金合計額で計算が
できます。)
ただし、投資信託の場合、分配金利回りだけをみていると、
受け取っている分配金がファンドの収益から出ている
ものなのか、投資元本が削られているのか、判断できません。
そのため、ファンドの運用利回りと分配金利回りを比較して、
ファンドの運用利回りのほうが高ければ、あなたが受け取って
いる分配金がファンドの運用の収益から支払われていると
判断することができます。
新光 US-REIT オープン『ゼウス』の分配金利回りは10%を
超えており、かなり高めの設定となっています。
ただ、ファンドの運用利回りがマイナスなので、あなたが
受け取っている分配金のほとんどはあなたが投資した資金
が戻ってきているに過ぎないということです。
これでは分配金利回りが高くても全く意味がありません。
未だ多くの投資家が勘違いをしながら、分配金利回りが
高いファンドに投資をしていますが、くれぐれも気を
つけてほしいと思います。
運用利回り | 分配金利回り | |
1年 | ▲9.07% | 15.4% |
3年 | ▲0.44% | |
5年 | 1.13% | |
10年 | 9.10% |
※2020年7月時点
分配金余力はどれくらい?
毎月分配型ファンドに投資をしている場合、もう1つ気になる
のが今後いつごろ、減配されそうかという点です。
そんなときに役立つのが分配金余力という考え方です。
分配金余力というのは、今の分配金の水準をあと何か月
続けられそうかを判断するための指標です。
明確にこの水準になったら減配されるという指標では
ありませんが、12カ月を切ったファンドはたいてい近々、
減配されることが多いです。
新光 US-REIT オープン『ゼウス』の分配金余力は、まだ100カ月
以上ありますので、減配の心配はないと言えます。
ただし、分配利回りが異常に高くなっており、今後急速に
分配金余力が減少していくと思われるので、油断はできな
い状況です。
分配金 | 繰越対象額 | 分配金余力 | |
172期 | 25円 | 2,681円 | 108カ月 |
173期 | 25円 | 2,656円 | 107カ月 |
174期 | 25円 | 2,631円 | 106カ月 |
175期 | 25円 | 2,619円 | 105カ月 |
176期 | 25円 | 2,594円 | 104カ月 |
177期 | 25円 | 2,646円 | 106カ月 |
178期 | 25円 | 2,631円 | 106カ月 |
179期 | 25円 | 2,636円 | 106カ月 |
180期 | 25円 | 2,611円 | 105カ月 |
181期 | 25円 | 2,597円 | 104カ月 |
182期 | 25円 | 2,639円 | 106カ月 |
183期 | 25円 | 2,614円 | 105カ月 |
積立NISAとiDeCoの対応状況は?
積立NISAやiDeCoで積立投資を検討している人も多いと
思います。
そこで、積立NISAやiDeCoの対応状況をまとめました。
積立NISA | iDeCo |
× | × |
※2020年7月時点
評判はどう?
タコ足配当を行う毎月分配型ファンドの悪しき側面が広く認知される
ようになった現在、その典型的なファンドである新光 US-REITオープン
『ゼウス』に対する良い口コミや評価はほとんど見当たりません。
下の月次の資金流出入額の図見ても、直近は資金が毎月流出しています。
資金が流出しているということは、解約が続出しているということ
なので、ここからも高い評価をしていない人がほとんどであること
がわかります。
※引用:モーニングスター
新光 US-REIT オープン『ゼウス投信』の評価まとめと今後の見通し
一般的にリートの価格は、リート市場全体の動向のほか、
保有不動産等の価値やそこから得られる収益の増減等により変動します。
また、金利上昇時にはリートの分配金利回りの相対的な魅力が弱まる
ため、それにより売却されリートの価格が下落することがあります。
その他、投資対象がドル円の為替動向も基準価額に影響を及ぼします。
上記を踏まえ、今後の新光 US-REITオープン『ゼウス』について
考察してみたいと思います。
コロナショックで大きく下落した米国リート市場ですが、すでに復調に
向かう兆しが見えます。また長期金利の低下は今後も当面続くと考え
られますので、リート市場にとってはプラス要因です。
ただし、根本的に、投資家を騙すような過剰なタコ足配当を
している新光 US-REIT オープン『ゼウス』に今から投資を
することはおすすめできません。
あなたが受け取る配当のほとんどがあなたが投資した元本
からの支払いになりますので、運用による利益はほぼなく、
もしろマイナスになっています。
また現状、明らかに過剰な分配を続けていることから、
基準価額の下落は止まらず、数年先には減配を繰り返さざるを
えない状況に追い込まれることが目に見えています。
この事実にしっかりと気づいていただき、毎月分配型の
ファンドでももっと健全に運用しているファンドに見直し
をしたほうがよいと思います。
当然ながら、弱点もあります。
今も私は投信運用を続けてはいますが、私がなぜ
投資信託の運用を主軸におかなくなったのか。
その理由をこちらで話をしています。
>>私が痛感する投資信託の限界。多くの投資家が見逃している投信運用の弱点