ここ数年、なかなか良い結果が出ていない米国リートですが、未だ
根強い人気がある岡三アセットのワールド・リート・セレクション
(米国)『愛称:十二絵巻』。
十二絵巻は、毎月決算型と1年決算型、為替ヘッジあり/なしの
4種類がありますが、今日は、一番人気が高い毎月決算型の
為替ヘッジなしについて徹底分析していきます。
1年決算型を保有している、もしくは検討している人にも役立つように
書いていますので、参考にしてみてください。
ワールド・リート・セレクション(米国)『十二絵巻』の基本情報
投資対象は?
十二絵巻の投資対象は、USリート・マザーファンドはの投資を
通じて、米国のリートに投資していきます。
リートとは、投資家から集めた資金を不動産(オフィスビル、
賃貸マンション、ショッピングセンター、ホテル等)に投資し、
不動産から得た賃貸収入や売却益を投資家に分配する仕組みの商品です。
※引用:交付目論見書
組入銘柄数は34銘柄となっており、米国リートの銘柄数が約150銘柄
ですので、かなり絞り込んで運用していることがわかります。
細かく組入銘柄をみても、イメージがわかないと思いますので、
セクター別の構成比を見ていきましょう。
様々なセクターに満遍なく分散投資していることがわかります。
米国リート全体のポートフォリオとそこまで大きく変わっていませんね。
※引用:マンスリーレポート
純資産総額は?
続いて、純資産総額はどうなっているか見てみましょう。
純資産総額というのは、あなたを含めた投資家から集めた資金の
総額だと思ってください。
ファンドの純資産総額が小さいと、適切なタイミングで銘柄を入れ
替えることができなかったり、純資産総額が大きく減少していると、
ファンドの組み替えがうまくできず、予期せぬマイナスを生む可能性が
ありますので、事前に確認すべきポイントの1つです。
十二絵巻は現在、380億円ほどあり、規模としては全く問題ありません。
毎月分配型ファンドに対する風当たりが強くなっていることと、
パフォーマンスが優れないため、資金の流出が続いていると
いった状況です。
※引用:マンスリーレポート
実質コストは?
私たちが支払うコストには、目論見書に記載の信託報酬以外に、
株式売買委託手数料や、保管費用、印刷費用などが含まれています。
そのため、実際に支払うコストは、目論見書記載の額より高くなるのが
通例で、実際にかかる実質コストをもとに投資判断をしなければなりません。
信託報酬を信用するな。知らないうちに差し引かれている実質コストの調べ方
十二絵巻の実質コストは1.76%となっています。購入時手数料と併せると、
初年度は5%以上取られますので、おすすめしづらいファンドです。
購入時手数料 | 3.3%(税込)※上限 |
信託報酬 | 1.65%(税込) |
信託財産留保額 | 0.3% |
実質コスト | 1.76%(概算値) |
※引用:最新運用報告書
実質コスト以外にも、多くの投資家が気づいていない
投信運用での成果を出すのに妨げとなる間違った考え方
をまとめました。参考にしてください。
無料ファンド相談から見えた。多くの人が気づいていない投信運用で成果を阻む9つの誤り
ワールド・リート・セレクション(米国)『十二絵巻』の評価分析
基準価額をどう見る?
十二絵巻の基準価額は3年前から見ると、33%ほど下落を
しています。
分配金を受け取らずに運用した場合の基準価額(青線)は
コロナショック前まで堅調に推移していましたが、コロナ
ショックの影響で3年間の利益をすべて吹き飛ばしました。
運用はうまく行っているにもかかわらず基準価額が下落を
続けているのは、過剰な分配金の支払いを続けているから
ですね。
基準価額が1000円台というのは、無理な分配を続けてきた
証拠です。
※引用:モーニングスター
利回りはどれくらい?
十二絵巻の直近1年間の利回りは▲9.16%となっています。
半年前の利回りと比較をすると、かなり悪化している
ことがわかります。
5年平均利回りでも1%ありませんので、運用会社や
販売会社がただ儲かっている構造になっています。
ちなみにあなたは実質利回りの計算方法はすでに理解していますか?
もし、理解していないのであれば、必ず理解しておいてください。
平均利回り | 2020年1月 | 2020年7月 |
1年 | 24.81% | ▲9.16% |
3年 | 5.02% | ▲0.61% |
5年 | 2.10% | 0.05% |
10年 | 10.24% | 8.51% |
※2020年7月時点
10年間高いパフォーマンスを出し続けている優秀なファンド達も
参考にしてみてください。
10年間圧倒的に高いリターンを出している海外REIT ランキング
同カテゴリー内における利回りランキング(上位●%)の変化
十二絵巻は、国際RIETの特定地域カテゴリーに属しています。
投資をするのであれば、同じカテゴリーでも優秀なパフォーマンス
のファンドに投資をすべきなので、同カテゴリー内でもパフォー
マンスのランキングは事前に調べておいて損はありません。
十二絵巻は、直近1年間で大きくマイナスとなりましたが、
それでも同カテゴリー内では平均以上のパフォーマンスを
維持しています。
コロナショックで世界的にリートがダメージを受けたことが
ここからもわかります。
平均利回り(上位●%) | 2020年1月 | 2020年7月 |
1年 | 10% | 16% |
3年 | 58% | 33% |
5年 | 70% | 46% |
10年 | 44% | 44% |
※2020年7月時点
年別のパフォーマンスは?
十二絵巻の年別のパフォーマンスは以下のようになっています。
2014年、2019年は高いリターンを実現できていますが、
それ以外の年が何とも不甲斐ない結果で終わっており、
全体で見ると、ほとんどプラスのリターンが残りません。
目的にもよりますが、この程度のパフォーマンスであれば、
先進国株式のインデックスファンドなどに投資をしたほうが
はるかにあなたの資産は増えるはずです。
年間利回り | |
2020年 | ▲16.25%(1-6月) |
2019年 | 24.81% |
2018年 | ▲8.32% |
2017年 | 1.74% |
2016年 | ▲3.84% |
2015年 | ▲0.90% |
2014年 | 47.44% |
※2020年7月時点
考えずに投資をしてしまいがちです。
しかし、「投資は出口戦略にあり」と言われるほど、
重要なテーマです。
ぜひこれを機会に投資の出口戦略を考えてみて
ください。
>>ここまで考えるのが本当の資産運用。多くの投資家が考えられていない投信運用の出口戦略とは
インデックスファンドとのパフォーマンス比較
十二絵巻に投資をするのであれば、より低コストで
米国リートに投資ができるインデックスファンド
とパフォーマンスを比較しておいて損はありません。
今回は、S&P 米国RIET指数に連動するeMAXIS 米国リート
インデックスとパフォーマンスを比較しました。
2019年ごろまではかなり拮抗していましたが、2019年後半から
十二絵巻が差をつけ始め、コロナショック以降は大きく差を
広げました。
やはりこういった急落相場では、アクティブファンドは銘柄を
自由に出し入れできるので、有利に働きますね。
これであれば少なくとも高いコストを支払って米国リートに
投資をする価値があると言えます。
※引用:モーニングスター
十二絵巻 | eMAIXS 米国リート | |
1年 | ▲9.16% | ▲14.65% |
3年 | ▲0.61% | ▲3.00% |
5年 | 0.05% | – |
10年 | 8.51% | – |
※2020年7月時点
類似ファンドとのパフォーマンス比較
十二絵巻に投資をするのであれば、同じくアクティブファンドで、
米国リートに投資をしているファンドとパフォーマンスを
比較してからでも遅くありません。
今回は、十二絵巻と同じく、毎月分配型のダイワ・USリート・
オープン・Bコースと比較をしました。
直近3年間のパフォーマンスは、かなり拮抗していますが、
総じて、ダイワ・USリート・オープン・Bコースが勝って
います。
※引用:モーニングスター
もう少し長期のパフォーマンスでも比較をしてみると、
十二絵巻は5年平均、10年平均利回りでも、劣っている
ことがわかります。
これであれば、ダイワ・USリート・オープン・Bコース
に投資をしたほうが良いですね。
十二絵巻 | ダイワUS-REIT | |
1年 | ▲9.16% | ▲9.97% |
3年 | ▲0.61% | ▲0.22% |
5年 | 0.05% | 1.57% |
10年 | 8.51% | 9.65% |
※2020年7月時点
最大下落率はどれくらい?
投資するにあたって、最大どの程度下落する可能性があるのか
知っておくことは非常に重要です。
先に下落幅を知っておくことで、大きく下落したときも、
慌てて売らずに冷静な判断ができるようになります。
十二絵巻の最大下落率は、2008年4月~2009年3月で▲65.16%と
なっています。
リターンのわりに、下落したときのインパクトが大きすぎるので、
正直、保有したいと思えないです。
最大下落率を知ってしまうと、少し足が止まってしまうかもしれません。
しかし、以下のことをしっかり理解しておけば、元本割れの可能性を
限りなく低くすることが可能です。
期間 | 下落率 |
1カ月 | ▲37.07% |
3カ月 | ▲57.01% |
6カ月 | ▲64.68% |
12カ月 | ▲65.16% |
※2020年7月時点
分配健全度はどれくらい?
分配金を毎月受け取っていると、受け取っていることに安心
してしまい、自分の投資元本からの配当なのか、ファンドの
収益からの配当なのか調べなくなります。
そこで、分配金がファンドの収益からちゃんと支払われている
のかを調べるときに役立つのが分配健全度です。
分配健全度とは、1年間の分配金の合計額と基準価額の変動幅を
もとに、あなたが受け取った分配金の約何%がファンドの収益
によるものなのかを計算できる指標です。
基準価額の変動幅 | 1年間の分配合計額 | 分配健全度 |
▲399円 | 240円 | ▲66% |
※2019/8/1~2020/7/31
十二絵巻の直近1年間の分配健全度は▲66%となっています。
分配健全度は100%を切ると、一部ファンドの収益以外から
分配金が支払われていることを意味しますが、0%を下回る
ということは、ファンドの収益からの支払いは一切ない
ということを意味します。
ここまで分配健全度がマイナスになるファンドも珍しいですが、
ファンドの運用がうまくいっていないにもかかわらず、高い
分配金を支払っているようなファンドだとこのような数値に
なりがちですので、注意が必要です。
計算するとよくわかる!分配金を受け取ることによるデメリットとは?
分配金利回りはどれくらい?
毎月分配型のファンドに投資をしている場合、どれくらいの
分配金が受け取れるのかを知るために分配金利回りを参考
にします。
ただし、投資信託の場合、分配金利回りだけをみていると、
受け取っている分配金がファンドの収益から出ている
ものなのか、投資元本が削られているのか、判断できません。
そのため、ファンドの運用利回りと分配金利回りを比較して、
ファンドの運用利回りのほうが高ければ、あなたが受け取って
いる分配金がファンドの運用の収益から支払われていると
判断することができます。
十二絵巻の分配金利回りは14%と高めなので、大きな分配金を
受け取ることができます。
ただ、ファンドの運用利回りがマイナスなので、あなたが
受け取っている分配金のほとんどはあなたが投資した資金
が戻ってきているに過ぎないということです。
さらに運用利回りがマイナスなので、あなたの投資元本も
そもそも目減りしています。
運用利回り | 分配利回り | |
1年 | ▲9.16% | 14.2% |
3年 | ▲0.61% | |
5年 | 0.05% | |
10年 | 8.51% |
※2020年7月時点
分配金余力はどれくらい?
毎月分配型ファンドに投資をしている場合、もう1つ気になる
のが今後いつごろ、減配されそうかという点です。
そんなときに役立つのが分配金余力という考え方です。
分配金余力というのは、今の分配金の水準をあと何か月
続けられそうかを判断するための指標です。
明確にこの水準になったら減配されるという指標では
ありませんが、12カ月を切ったファンドはたいてい近々、
減配されることが多いです。
十二絵巻の分配金余力は、20カ月を切っており、そろそろ
危険な水域に入っています。
今年、来年に減配が行われてもおかしくない水準になって
きていますね。
分配金 | 繰越対象額 | 分配金余力 | |
187期 | 20円 | 484円 | 25.2カ月 |
188期 | 20円 | 465円 | 24.2カ月 |
189期 | 20円 | 447円 | 23.3カ月 |
190期 | 20円 | 436円 | 22.8カ月 |
191期 | 20円 | 416円 | 21.8カ月 |
192期 | 20円 | 400円 | 21.0カ月 |
193期 | 20円 | 398円 | 20.9カ月 |
194期 | 20円 | 378円 | 19.9カ月 |
195期 | 20円 | 360円 | 19.0カ月 |
196期 | 20円 | 363円 | 19.1カ月 |
197期 | 20円 | 401円 | 21.0カ月 |
198期 | 20円 | 383円 | 20.1カ月 |
積立NISAとiDeCoの対応状況は?
積立NISAやiDeCoで積立投資を検討している人も多いと
思います。
そこで、積立NISAやiDeCoの対応状況をまとめました。
積立NISA | iDeCo |
× | × |
※2020年7月時点
評判はどう?
十二絵巻の評判はネットでの書き込みなどで調べる方法も
ありますが、評判を知るうえで一番役に立つのが、月次の
資金流出入額でしょう。
資金が流出しているということは、それだけこのファンドを
解約している人が多いということなので、評判が悪いという
ことです。
十二絵巻は、分配金が減額となった2017年末から資金流出超過
となっており、評判はよくないと言えます。
しかし直近になって、資金が流入超過となっている月が出始めて
おり、基準価額が下落したことで、分配金利回りが高くなった
ことで分配金目当ての投資家が集まってきているということです。
※引用:モーニングスター
ワールド・リート・セレクション(米国)『十二絵巻』の評価まとめと今後の見通し
十二絵巻に期待できる利回りは中長期で見ても、年利で6~7%程度
だと思います。
そこから考えると、分配金利回りは15%近くあり、分配金をすべて
運用益でカバーすることは不可能に近いでしょう。
ファンドの運用がうまくいったとしても、あなたが受け取る分配金の
うち約半分はあなたの投資資金から支払われていることになります。
毎月分配金をもらえていると、自分のファンドがどのような状況
(タコ足配当)になっているのか気づくのに遅くなりがちです。
毎月分配型の投資信託は今でも年金変わりの手段として非常に人気が
ありますが、毎月年金のように配当金を受け取れるという表面的な
メリットだけにフォーカスしていてはいけません。
銘柄の選定においては、あなたが選んだ投資信託がしっかりと
利益を上げてくれなければ、意味がありません。
米国リートのインデックスファンドや他の米国RIETのアクティブ
ファンドに投資をするよりは、まだ良いですが、そもそも論として、
米国リートに投資をすべきなのかは検討したほうがよいと思います。
毎月分配金をもらいたいのであれば、他にもっとパフォーマンスが
優れたファンドがありますし、パフォーマンスにこだわるのであれば、
あえてリートでなくても構わないと思います。
当然ながら、弱点もあります。
今も私は投信運用を続けてはいますが、私がなぜ
投資信託の運用を主軸におかなくなったのか。
その理由をこちらで話をしています。
>>私が痛感する投資信託の限界。多くの投資家が見逃している投信運用の弱点